今回のテーマ
「電動キックボード・電動アシスト自転車の普及が地域交通に与える影響を仮説検証してみよう」
この自由研究のテーマは、電動キックボードや電動アシスト自転車といった「電動マイクロモビリティ」の普及が、私たちの身近な地域交通にどのような影響を与えているかを、仮説を立てて検証することです。
都市部では、これらの新しい移動手段が、「ラストワンマイル」(自宅から駅、または駅から目的地までの最後の短い距離)の移動を便利にしています。また、地方では、自家用車以外の移動手段の確保や、観光客の二次交通(主要な交通手段の後に利用する手段)として期待されています。
本研究では、単に便利な移動手段が増えたという事実だけでなく、公共交通機関(バスや電車)の利用者数、人々の行動範囲や消費行動、そして交通事故や交通ルールの意識といった、地域社会全体への影響を多角的に掘り下げます。
自由研究の目的
電動キックボードや電動アシスト自転車の普及は、私たちの日常生活に直接関わる、「今、まさに起きている社会変化」の一つです。このテーマを学ぶことは、以下の点であなたの学習を深めます。
- 身近な社会の変化の理解
電動キックボードの公道走行ルール緩和など、法制度や街の風景は急速に変化しています。この変化をただ受け入れるだけでなく、「なぜ変わったのか」「どんな影響があるのか」を考えることで、社会を見る目、すなわち社会を見る解像度を養うことができます。 - 未来の社会の予測
世界中で、すべての移動手段を連携させる新しい概念である「MaaS (Mobility as a Service)」が注目されています。電動マイクロモビリティはその重要な要素であり、これを学ぶことは、未来の都市計画や生活様式、経済活動がどのように変化するかを予測し、主体的に考える力につながります。 - 多角的な問題解決能力の向上
便利さの裏には、交通事故、歩行者との接触、違法駐車、公共交通の衰退といった多様な課題も潜んでいます。これらの課題に対し、利用者、歩行者、自治体といった異なる視点からデータを集め、「どうすれば良いか」という具体的な解決策を提言するプロセスを通じて、社会的な問題解決能力と論理的な思考力を高められます。
自由研究のゴール
- レベル1 自分の住む街や学校周辺で、電動マイクロモビリティの利用状況や問題点(例:違法駐車、危険な走行)を定点観測・記録し、利用者や非利用者の意識をアンケートなどで把握する。
- レベル2 収集した観察記録やアンケート結果をグラフ化・分析し、「普及が地域の〇〇(例:駅利用者の増減、特定の店舗への来客数)に影響を与えている」という仮説を検証し、客観的なデータに基づいた結論を導出する。
- レベル3 標準レベルの検証結果を根拠に、「地域社会にとってより安全で効率的な電動マイクロモビリティの利用ルールやインフラ(道路、駐輪場など)」を具体的に提案する。その提案を、専門家や自治体の担当者向けの資料のように論理的かつ説得力ある構成でまとめた提言レポートを作成する。
地域課題の解決に役立っている事例
- 都市部のラストワンマイル問題の解決
特定の都市部では、電動キックボードや電動アシスト自転車のシェアリングサービス(例:LUUP、ドコモ・バイクシェアなど)が展開されています。駅やバス停から遠い場所へのアクセスが容易になり、徒歩圏内の概念が拡大しました。 - 地方・観光地での二次交通の確保
公共交通機関が少ない地方や、広い敷地を持つ観光地(例:離島、リゾート施設)では、レンタルの電動アシスト自転車や電動キックボードが導入されています。これにより、観光客は自家用車に頼らずに広範囲を移動できるようになり、地域の周遊性が向上しています。 - 高齢化社会の移動支援
免許返納後の高齢者にとって、電動アシスト自転車は買い物などの日常生活に必要な移動手段として重要性が増しています。これは、地域住民の生活の質の維持に直結する影響です。
研究を進めるうえで、以下のポイントに注目しよう!
- 多角的な視点を持つ
- 利用者「なぜ利用するのか?」「便利になった点は?」
- 非利用者(歩行者、自動車運転者)「危険を感じるか?」「どのようにルールを守るべきだと思うか?」
- 地域店舗「売り上げに変化はあったか?」「来店客が増えたか?」
- 公共交通機関「利用者数が減ったか?」
- 定量的なデータ収集と分析
- 「なんとなく便利」ではなく、「〇〇駅の利用者は以前より○○%減った」や「アンケートで○○%の人が便利だと答えた」といった数字(データ)で語れるようにします。
- グラフや表を用いてデータを整理し、客観的な事実として結論を導きます。
- 具体的な仮説設定
「電動キックボードの普及は便利になる」という抽象的な仮説ではなく、「電動キックボードの普及は、駅前バス停の利用者を10%減少させる」というように、測定可能で具体的な仮説を設定します。
自由研究の進め方
ステップ1 仮説の設定
あなたの住む街で、「電動キックボード・電動アシスト自転車の普及が、地域の〇〇(例:歩行者の交通ルール意識、バスの利用頻度)に〇〇(例:ポジティブ/ネガティブ)な影響を与えている」という測定可能で具体的な仮説を立てます。この仮説が研究の柱となります。
ステップ2 調査方法の計画
仮説を検証するために必要なデータ(例:利用者の年齢層、バスの時刻表と利用状況、違法駐車の台数)を明確にし、そのデータ収集方法(アンケート、観察調査、自治体データの利用など)を具体的に計画します。誰に、いつ、どこで、何を尋ねるか(または記録するか)を明確にした調査計画書を作成します。
ステップ3 データ収集
計画に基づき、実際に現場でデータを収集します。特定エリアでのキックボードの違法駐車台数を時系列で記録したり、地域住民へのアンケートを実施したり、駅やバス停の利用状況を観察するなど、地道な作業ですが、これが結論の根拠となります。
ステップ4 データ分析
収集した生データを整理し、グラフや表にまとめます。特に「設定した仮説が正しかったか、それとも間違っていたか」を検証するために、データから傾向や関係性(例:キックボードの普及エリアとバス利用者の増減に関係があるか)を見つけ出し、客観的な視点から考察を加えます。
ステップ5 結論と提言の作成
分析結果に基づき、仮説の検証結果を結論として述べます。さらに、その結論から導かれる地域社会への具体的な提言(例:新たな駐輪場設置場所の提案、安全運転のための啓発キャンペーンの提案)を、データという根拠とともにまとめ、論理的な研究レポートとして完成させます。
自由研究から発見したアイデア
あなたの研究結果が「電動マイクロモビリティは便利だが、駐輪や安全面に課題がある」という結論になったとします。ここから、以下の様な新しいアイデアを提案できます。
- AIカメラを活用したスマート駐輪システム
放置自転車/キックボードが多い場所にAIカメラを設置。違法駐車を検知すると、モビリティ事業者に自動で通知が行き、即座に回収・移動が行われるシステムを提案する。 - 地域連携型安全教育プログラム
高齢者や小学生など、特に交通弱者となり得る地域住民を対象に、電動キックボードの事業者や警察と連携した体験型の安全講習会(例:実際に低速で走行するキックボードの横を歩く体験)を提案する。 - 「モビリティ・ハブ」構想
バス停や駅の近くに、電動キックボード、シェアサイクル、カーシェアなどが集約された多機能な乗り換え拠点(ハブ)を整備することを提案する。これには、休憩所や地域情報の発信機能も持たせることで、単なる交通拠点ではなく、地域コミュニティの活性化拠点としての役割も持たせる。
この自由研究に関連する仕事
- 都市計画家・交通コンサルタント 地域住民の移動ニーズを分析し、最適な交通インフラ(道路、公共交通、駐輪場など)を計画・設計する仕事です。データ分析力と社会課題への意識が求められます。
- モビリティサービス事業者(LUUP、ハローサイクリングなど) 電動キックボードやシェアサイクルなどの新しい移動サービスを開発・運営する仕事です。利用者の行動パターンやニーズを理解し、より安全で便利なサービスを設計します。
- 地方公務員(交通政策担当) 自治体として、地域の交通問題解決や観光振興のための政策を立案・実行する仕事です。新しいモビリティと既存の交通手段との調和を図る役割を担います。
- データサイエンティスト/リサーチャー 大量の移動データ(人流データ)やアンケート結果を分析し、企業や自治体の意思決定に役立つ洞察を提供する仕事です。
まとめ
電動キックボードや電動アシスト自転車は、私たちの街の交通を静かに、そして急速に変えています。
この自由研究は、単なる乗り物の紹介で終わらせず、「この変化が社会にどんな良いこと、悪いことをもたらしているのか?」という問いを、自分自身でデータに基づいて検証することに意義があります。
現代社会の課題を発見し、解決策を提案する力は、将来どんな道に進むにしても必ず役立つでしょう。未来の移動手段と、それが織りなす地域社会のあり方を、この自由研究を通じて深く探求してみてください!
関連書籍
身近な仕事について考えてみよう!
- 仕事のことを通じて学んだこと、楽しかったこと、難しかったことを書いてみましょう。
- テーマについての新しい発見や、自分が感じたことをまとめます。
- 今後、さらに調べてみたいことや、他の人に教えたいことがあれば、それも書いてみましょう。