教育制度の特徴
パラオ共和国(以下、パラオ)は太平洋に浮かぶ小さな島国で、アメリカ合衆国と密接な関係を持っています。その影響で、教育制度はアメリカのモデルをベースに構築されています。初等教育(小学校相当)は義務教育として定められていて、通常は6歳から12歳までの6年間です。続く中等教育(中学校・高校相当)は合計6年間(中等前期4年、高等2年)ですが、実際には多くの生徒が“小学校6年+中等前期4年+高等2年”の12年間一貫教育を受けます。言語は英語を公用語としつつ、母語であるパラオ語も現地の学校で扱われます。中央政府下の教育省(Ministry of Education, Sport and Training: MEST)がカリキュラムや教員制度を管轄し、全土に公立校を配置。首都コロール島にあるパラオ・ハイスクール(Palau High School)が唯一の公立高校で、多くの地方出身の生徒は寄宿寮から通っています。また、教会や宗教団体、民間組織が運営する私立校もいくつか存在します。
教育方法
パラオの学校では、アメリカ式の教科学習を基盤にしながらも、伝統文化や環境学習を多く取り入れています。
- 双方向型の授業スタイル 教科書を用いた講義だけでなく、ディスカッションやグループワークを重視し、生徒同士が意見交換しながら学びます。
- 言語教育(バイリンガル教育) 基本は英語で授業が進みますが、低学年(小学校では特に)ではパラオ語を使った指導も並行。読み書きや会話ではバイリンガル能力を伸ばします。
- 経験学習・フィールドワーク 海洋資源に恵まれた地域特性を活かし、サンゴ礁やマングローブ林の現地観察、漁業体験、伝統的なクラフト作りなどを通して自然環境や文化を学ぶプログラムがあります。
- ICT活用 近年はオンライン教材やタブレット端末を導入し、遠隔地の学校ともコラボレーション。離島の児童・生徒も首都部とほぼ同じ教材を利用できるようになってきています。
- 道徳・価値教育 家族や村落コミュニティの尊重を重視し、伝統行事や儀礼(ヤオセリ伝統歌など)の学習を通じて、地域の文化や協調性を育む活動が行われています。
教育への取り組みや支援
政府予算と政策
- 国の歳入の一部を教育に割り当て、教室の新設や改修、教科書・教材の整備に投資。特に離島部の校舎改築や水道・電気整備は優先事項です。
- 教師の資格制度を強化し、教育省が定期的に研修を実施。教員免許更新には一定時間の研修受講が必要です。
アメリカ・コンパクト支援
1986年に締結された「自由連合協定(Compact of Free Association)」により、米国からの財政支援・技術支援が受けられます。教員育成プログラムや奨学金、学校設備の整備援助が含まれます。
国際機関・NGOの協力
- UNESCO(国連教育科学文化機関)や世界銀行、アジア開発銀行(ADB)からの助成金で、中等教育カリキュラムの改訂やICT教育プロジェクトが進行中。
- 日本のJICA(国際協力機構)もコミュニティスクール支援や図書館の整備、教員研修を行い、現地の学校とオンラインで連携する仕組みづくりに寄与しています。
奨学金制度
国内の優秀生徒には教育省から奨学金が出され、米国や日本、オーストラリアの大学・専門学校への進学が促進されています。留学先で得た知識を持ち帰り、地域振興に役立てる期待があります。
地域コミュニティの役割
村や氏族ごとに教育支援活動が行われ、学用品の寄付や放課後塾(チュータリング)の運営、伝統文化教育の担い手となる長老の招へいなど、地域ぐるみで学習環境を整えています。
子供達の1日の過ごし方
- 朝(6:30~7:30)
- 目覚ましよりも早く、島の鶏の鳴き声で起床。家族全員で朝食をとります。朝食にはタロイモやパンケーキ、フルーツ(パパイヤやバナナ)が並ぶことが多いです。
- 学校へは徒歩、自転車、または村の小さなバス(スクールバス)で通学。離島から通う場合は、ボートで本島へ渡り、バスに乗り換えます。
- 目覚ましよりも早く、島の鶏の鳴き声で起床。家族全員で朝食をとります。朝食にはタロイモやパンケーキ、フルーツ(パパイヤやバナナ)が並ぶことが多いです。
- 学校生活(8:00~15:00)
- 8:00~8:10 国旗掲揚式と全校ミーティング。毎朝、パラオ国歌を歌い、アメリカ国歌も併せて歌うことがあります。
- 8:15~10:30 午前の授業。国語(パラオ語・英語)、算数、社会、理科などの基本教科を学びます。
- 10:30~10:50 休憩時間。短いブレイクですが、友達と遊んだり、おやつを食べたりしてリフレッシュ。
- 10:50~12:00 体育や音楽、美術の授業。特に体育では、ビーチクリンアップ(浜辺のゴミ拾い)など自然環境保護活動を兼ねたプログラムが組まれることもあります。
- 12:00~13:00 昼食・昼休み。給食がない学校もあり、その場合は弁当を持参します。昼休みは校庭を走り回ったり、バスケットボールやサッカーを楽しむ子も多いです。
- 13:00~15:00 午後の授業。英語による読解や作文、算数の応用問題、地域社会に関するワークショップなどを実施。
- 8:00~8:10 国旗掲揚式と全校ミーティング。毎朝、パラオ国歌を歌い、アメリカ国歌も併せて歌うことがあります。
- 放課後(15:00~17:00)
- 部活動(サッカー、バスケットボール、バレーボールなど)や課外クラブ(伝統ダンスや手工芸、環境保護クラブ)に参加する生徒が多いです。島ならではの伝統ダンスは、小さいころから親しむ機会があり、週に数回その練習があります。
- 家庭に帰ってからは、両親や祖父母とともに漁に出たり、ヤムイモ畑の手伝いをすることも。放課後に地域の長老から伝統的な漁法や手工芸を学ぶ機会もあります。
- 部活動(サッカー、バスケットボール、バレーボールなど)や課外クラブ(伝統ダンスや手工芸、環境保護クラブ)に参加する生徒が多いです。島ならではの伝統ダンスは、小さいころから親しむ機会があり、週に数回その練習があります。
- 夜(17:00~20:00)
- 家庭で夕食をとり、宿題や予習に取り組みます。電気の供給が不安定な地域もあるため、日没後はろうそくやランタンの下で勉強をすることもあります。
- 質問があれば、オンラインで先生に問い合わせる生徒も増えてきており、夜遅くまでインターネット経由で課題を提出する姿が見られます。
- 家庭で夕食をとり、宿題や予習に取り組みます。電気の供給が不安定な地域もあるため、日没後はろうそくやランタンの下で勉強をすることもあります。
- 就寝前(20:00~21:00)
- 家族全員で日中の出来事を話し合い、翌日の予定を確認。パラオでは親戚同士の絆が強く、夜も親戚の家を回って情報交換することが日常です。21時には就寝する子供が多いです
教育と社会の関係
パラオ社会にとって、教育は「島国の将来を支える基盤」として非常に重要視されています。以下のように、教育と社会は密接に結びついています。
伝統文化の継承
- 学校やコミュニティスクールでは、パラオ独自の伝統舞踊や歌、手工芸(バスケット編みなど)を通して、先祖から受け継いだ知識を子供たちに伝えます。これにより、急速にグローバル化が進む中でもアイデンティティを守ろうとしています。
- 伝統長老(チェリオ)が定期的に学校を訪れ、口承で伝えられてきた物語や儀式の意味を教えることで、子供たちの「自分たちがどこから来たのか」「何を大切にして生きるべきか」を理解させます。
経済発展と職業教育
- 観光業が主要産業の一つであるため、観光ガイドやホスピタリティー(ホテル・飲食)関連の技術・英会話教育が盛んです。修学旅行や研修で首都のホテルに出向いて実践的な学びを得る機会もあります。
- 漁業・農業・水産養殖などの地域産業と連携し、地元の資源を活かすプロジェクト学習が行われています。子供たちは「サンゴ礁の保全」「持続可能な漁法」を学び、将来は地域のリーダーとして活躍するための素地を作ります。
社会的課題への対応力育成
- 地域医療や環境保護、ジェンダー平等といった社会問題を教材に取り入れ、ディスカッションを通じて「自分たちに何ができるか」を考えさせる授業が増えています。
- 地震や台風などの自然災害への備えとして、学校で定期的に防災訓練を実施。子供たちは避難経路や応急手当を学び、災害時にコミュニティの中核を担う意識が育まれます。
国が抱える教育の課題と未来
- インフラと教員不足
離島地域ではインターネット回線が不安定だったり、停電が頻発するため、デジタル教材の活用が難しい場面があります。
都市部と離島部の教員配置が偏り、離島の学校では複数教科を1人の教員が担当することも。専門的な指導を受けにくいため、基礎学力に格差が生じる恐れがあります。
- 少子化・若年層の流出
高校卒業後、大学進学や就職を機に米国やオーストラリア、日本へ移住する若者が増加。地域に戻らず、そのまま現地で就職するケースもあり、将来的に地方の過疎化・人材不足を招く懸念があります。
出生率が低下傾向にあり、少子化による学校統廃合の動きや、小規模校の運営維持が厳しくなっています。
- ICTとリモート教育の推進
パラオ教育省は、政府や国際機関と協力して、離島の全校に衛星インターネットを整備する計画を進めています。これにより、遠隔地でも都心の講師によるオンライン授業やビデオ会議を活用できるようになります。
eラーニング教材やデジタル図書館を導入し、自宅や学校で24時間いつでも学習できる環境を整備中。特に英語強化プログラムやプログラミング教育が優先領域として挙げられています。
- 地域コミュニティと国際連携の強化
地域社会との協働で「村じまん学習(Village Pride Learning)」と呼ばれるプロジェクトを開発。地元の歴史や文化を教材化し、観光客向けガイド教材としても活用することで、学びを地域振興につなげます。
日本や韓国、アメリカの大学との交流協定を拡充し、奨学金や短期派遣プログラムを増設。留学先で培った人材が地域に戻るインセンティブづくりを模索しています。 -
教育と文化や価値観の関係
コミュニティの協調性を育むフィールドワーク
サンゴ礁調査やマングローブ林の観察など、自然環境を舞台にした学習を通じて、「みんなで協力して自然を守る」という意識が根づきます。子供たちは海や森での共同作業を経験することで、家族・村落の絆や助け合いの大切さを学びます。
長老(チェリオ)による口承教育で受け継がれる伝統
学校では定期的に伝統長老を招いて、昔から伝わる儀式や神話、踊りの意味を聞く授業が行われます。こうした「目に見えない歴史」を知ることで、パラオ人としての自尊心や先祖への敬意が自然に育まれます。
バイリンガル教育で培われるアイデンティティと適応力
英語がメインの授業と並行して、低学年ではパラオ語を使った指導が行われるため、「自分たちの言葉」を大切にしながらグローバル社会ともつながる感覚が身につきます。この二つの言語環境が、伝統と近代化を両立させるパラオ独自の柔軟な価値観を育てています。
伝統舞踊や歌を通じた「協調と表現」の学び
体育や音楽の授業では、パラオの伝統舞踊(ミュルグンなど)や伝統歌を学ぶプログラムが組み込まれています。
集団でひとつの踊りや歌を仕上げる過程で、「みんなが同じリズムを感じる大切さ」や「村の一員としての自覚」が養われます。
家庭での共同作業と学校教育のリンク
放課後に漁に同行したり、家畜の世話やタロイモ畑の手伝いをする経験を通じて、「自分の学びを地域の暮らしに還元する」という価値観が根づきます。これにより、教室で学んだ自然科学や算数の知識が「生活と直結した問題解決能力」として身につきます。
防災教育で培われる「助け合いの精神」
台風や地震に備えた避難訓練では、学校と地域コミュニティが一体となって実施されます。子供たちは「緊急時こそ助け合う」大切さを学び、日常の協調性が防災意識としても存分に活かされています。
地域プロジェクトを通じた「誇りと自立」
「村じまん学習」では、地元の伝統工芸や歴史を教材化し、子供たち自身がガイドブックや展示パネルを作ります。自分たちの文化を外部の人に伝える経験が、「生まれ育った土地への誇り」や「地域社会を支える自立心」を育てます。
まとめ
パラオは、小さな島国ながら教育に対する情熱と地域文化の重視が共存するユニークな国です。アメリカの教育制度を導入しつつも、パラオ語や伝統文化を守り伝えるための工夫が随所に見られます。離島と本島を結ぶ学習インフラの整備や、地域コミュニティと連携したプロジェクト学習、国際機関や他国の支援による機会拡大など、「教育格差の解消」と「文化継承」の両立に力を注いでいます。一方で、インフラ不足や教員確保、若者の流出といった課題を抱え、未来にはICTの更なる活用や国際交流の強化が求められています。子供たちは毎日、ビーチでの観察や伝統舞踊の練習を通じて、学校で学んだ知識を地域の生活と結びつけながら成長しています。パラオの教育から学べるのは、「自然・文化・国際社会をつなぐ学びのかたち」。小さい国だからこそできる工夫や挑戦が、子供たちの未来を切り開いていきます。
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