世界の教育|楽園のラットレースが世界市民を育てる。モーリシャスの教育改革が問いかける、本当の豊かさとは何か

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教育制度の特徴

モーリシャスの教育制度は、イギリスの制度を基礎としています。大きな特徴は、小学校から大学院までの公立教育が無料であること。国が教育に非常に力を入れていることがわかります。制度は主に「就学前(2年)」「小学校(6年)」「中学校(7年)」に分かれており、16歳までが義務教育です。

  • 多言語教育 公用語は英語ですが、街ではフランス語やクレオール語も広く使われています。学校では英語とフランス語が必修科目となっており、子どもたちは自然に複数の言語を操るようになります。さらに、インド系や中国系の住民も多いため、ヒンディー語やウルドゥー語、中国語などを選択して学ぶことも可能です。
  • 重要な全国統一試験 教育の節目には重要な試験があります。
    PSAC(Primary School Achievement Certificate) 小学校卒業時に行われる、最初の関門。この試験の成績が、進学できる中学校を大きく左右します。成績優秀者は「スタースクール」と呼ばれる評判の高い中学校に進学できるため、国全体がこの試験に注目します。
    HSC(Higher School Certificate) 中学校の最終学年で受ける大学入学資格試験。ケンブリッジ大学国際教育機構が認定する国際レベルの試験で、国内外の大学へ進学するための重要なステップです。

教育方法

モーリシャスの教育で目指されているのは、生徒一人ひとりの個性を尊重する「生徒中心の教育」です。政府や教育機関は、生徒が主体的に学べるようなカリキュラムの導入を進めています。しかし、現実は少し異なります。特にPSACやHSCといった重要な試験が近づくと、授業は「試験中心」になりがちです。良い成績を収め、良い学校へ進学することが重視されるため、どうしても暗記や問題演習に多くの時間が割かれる傾向にあります。この「理想」と「現実」のギャップが、モーリシャスの教育を語る上で欠かせないポイントとなっています。

教育への取り組みや支援

国は「すべての子どもに質の高い教育を」という目標を掲げ、様々な支援を行っています。

  • 無償教育の徹底 憲法で保障された権利として、公立校の授業料は大学まで無料です。教科書も無償で配布されます。
  • Nine-Year Continuous Basic Education 近年導入された大きな教育改革です。これは、かつて小学校卒業時のPSAC(旧CPE)で人生が大きく決まってしまうことへの反省から生まれました。すべての子どもが、少なくとも9年間(小学校6年+中学校3年)は継続して基礎教育を受けられるようにし、一人ひとりの可能性をじっくり育むことを目指しています。
  • 特別な支援が必要な子どもたちへ 政府は特別教育の必要性も重視しており、SENA(Special Education Needs Authority)という専門機関を設置しています。各地のNGO(非政府組織)とも協力し、障がいのある子どもたちが適切な教育を受けられるような学校やプログラムを運営しています。

子供達の1日の過ごし方

モーリシャスの子どもたちの生活は、学校と「勉強」が中心です。

  • 朝〜午後 学校は朝8時半頃に始まり、午後2時過ぎに終わることが多いです。授業の合間には休み時間があり、友達とおしゃべりしたり、校庭で遊んだりして過ごします。
  • 放課後 ここからがモーリシャスの特徴的な時間です。多くの子どもたちは、学校が終わった後に「プライベート・テュイション」と呼ばれる個人塾へ向かいます。これは、学校の授業を補い、特にPSACなどの重要な試験に備えるためのものです。学校の先生が放課後に自分の家で塾を開いていることも珍しくありません。
  • 夜 塾から帰宅した後は、学校や塾の宿題をこなします。スポーツや芸術などの習い事をしている子もいますが、高学年になるにつれて、勉強にかける時間の割合が非常に大きくなっていきます。

教育と社会の関係

教育は、モーリシャス社会において「階層を上がるための最も重要な手段」と考えられています。良い教育を受け、良い大学を出て、良い仕事に就くことが、多くの家庭の願いです。この価値観が、社会全体に強烈な「競争」を生み出しています。 特に、良い中学校(スタースクール)に入るためのPSACをめぐる競争は「ラットレース」と表現されるほど熾烈です。親は子どもの教育に多額のお金をかけ、子どもたちは幼い頃から勉強漬けの毎日を送ることになります。
この過酷な競争が、子どもたちのストレスや、家庭の経済的負担、そして教育格差を広げる一因になっていると指摘されています。公教育は無料であるにもかかわらず、実際には塾の費用が家計を圧迫するという矛盾も生まれています。

国が抱える教育の課題と未来

    輝かしい成果を上げる一方で、モーリシャスの教育は大きな課題に直面しています。

    • 過度な試験競争と格差 PSACの結果によって、学校間に歴然とした格差が生まれています。設備の整った人気の「スタースクール」と、そうでない学校とでは、教育の質に差があるのが現実です。この格差が、子どもたちの将来の機会の不平等につながっています。
    • 暗記偏重からの脱却 試験に合格することが最優先されるあまり、創造性や問題解決能力を育む教育がおろそかになりがちです。社会に出てから本当に必要なスキルを、学校教育でいかに育てていくかが問われています。
    • こうした課題に対し、政府は「Nine-Year Continuous Basic Education」改革を打ち出しました。この改革の目的は、小学校卒業時の試験の重みを軽くし、中学校の最初の3年間でじっくりと基礎学力をつけさせることです。これにより、子どもたちが過度なプレッシャーから解放され、もっとのびのびと学べる環境を作ることが期待されています。

    教育と文化や価値観の関係

    「多言語能力」が育む、柔軟な国際感覚と多文化への寛容性

    学校で英語とフランス語を必修で学び、家庭や地域ではクレオール語や祖先の言語(ヒンディー語、中国語など)に触れる環境は、自然と複数の言語を操る能力を育みます。これは単なる語学力に留まらず、「相手の文化や背景を尊重し、柔軟に対応する」という価値観に繋がっています。多様な人種が共存する国内での調和を保つ基盤であると同時に、世界中から観光客を迎える「観光立国」としての成功や、国際的なビジネスシーンで活躍する人材を輩出する原動力となっています。

    「熾烈な受験競争」が生んだ、家族の強い結束と努力至上主義

    「ラットレース」とまで呼ばれる過酷な受験競争は、「子どもの教育は家族全員で支えるべき最優先事項」という強い文化を生み出しました。親は収入の多くを塾(プライベート・テュイション)費用に充て、祖父母が送迎を手伝うなど、家族が一丸となって子どもをサポートします。この経験を通して、子どもたちは「努力すれば道は開ける」という価値観を強く内面化します。一方で、これが学歴を過度に重視する社会風潮や、学業でつまずいた際の大きなプレッシャーにもなっています。

    「教育による立身出世」が根付かせた、自己投資への高い意識

    天然資源が少ないモーリシャスにとって、国の発展を支えてきたのは「人」でした。公教育が無料であることも手伝い、「教育こそが自分と家族の未来を豊かにする最大の投資である」という価値観が社会全体に広く浸透しています。良い仕事に就くために、社会人になってからも専門知識や語学を学び続ける人は少なくありません。この自己投資への積極性が、国全体の経済成長や発展に貢献していると言えるでしょう。

    まとめ

    モーリシャスの教育は、「無償で質の高い教育」という素晴らしい光の側面と、「過酷な競争と格差」という影の側面を併せ持っています。多言語を操り、国際的な視野を持つ人材を多く輩出してきたことは、この国の大きな誇りです。しかし、その裏で子どもたちが抱えるプレッシャーや、家庭の負担は決して小さくありません。

    「すべての子どもたちの可能性を最大限に引き出す」という理想に向かって、モーリシャスは今、大きな教育改革の真っ只中にいます。この国の挑戦は、私たちに「本当の意味で豊かな教育とは何か」を問いかけてくれているのかもしれません。

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