教育制度の特徴
ソマリアの教育制度は、とてもユニークです。長い間、国全体をまとめる強い政府がなかったため、日本の「文部科学省」のような組織が作った統一のルールがありませんでした。そのため、今も教育は様々な形で行われています。
- コミュニティ・スクールと私立学校 地域の人々がお金を出し合って運営する学校や、個人が運営する私立学校が教育の中心を担っています。
- 宗教学校(マドラサ) イスラム教の教えやコーランの読み方を学ぶ伝統的な学校も、多くの子どもたちにとって大切な学びの場です。
- 再建される公教育 近年、ソマリア連邦政府が国際社会の支援を受けながら、少しずつ公立学校の再建を進めています。国としての統一された教育システムを作ろうという大きな挑戦が始まっています。
このように、様々な形の学校がモザイクのように存在するのが、ソマリアの教育制度の大きな特徴です。
教育方法
ソマリアの学校での学び方は、その学校の種類や地域によって異なります。
伝統的な宗教学校では、先生が読み上げるコーランの一節を、生徒たちが何度も何度も繰り返し唱えて暗記するという方法が中心です。
一方、一般的な学校では、先生が黒板に書いたことを生徒たちがノートに書き写す、一斉授業のスタイルが多く見られます。しかし、ここには大きな課題があります。教科書やノート、鉛筆といった基本的な学用品が、多くの子どもたちの手に渡っていません。1冊の教科書を10人以上で共有したり、そもそも教科書がなかったりすることも珍しくないのです。
また、専門的な訓練を受けた先生の数も圧倒的に足りていません。限られた教材と環境の中で、先生も子どもたちも、懸命に学びを続けています。
教育への取り組みや支援
このような厳しい状況の中、ソマリアの教育を支えようと、国内外で多くの取り組みが行われています。ソマリア政府は「国家教育計画」を策定し、国の力で教育を立て直そうと努力しています。そして、その大きなパートナーとなっているのが、UNICEF(ユニセフ)やUNESCO(ユネスコ)といった国際機関や、世界中のNGO(非政府組織)です。彼らは、具体的に以下のような支援を行っています。
- 学校の建設・修復 壊れた校舎を直し、安全に学べる環境を整えます。
- 教材の提供 教科書や学用品を子どもたちに届けます。
- 教員のトレーニング 先生たちが質の高い授業を行えるように、研修を実施します。
- 就学促進キャンペーン 「Go 2 School(学校へ行こう)」といったキャンペーンを行い、一人でも多くの子ども、特に女の子が学校に通えるように働きかけています。
これらの支援は、ソマリアの子どもたちの未来を照らす、希望の光となっています。
子供達の1日の過ごし方
ソマリアの子どもたちの日常は、住んでいる場所(都市か、農村か、国内避難民キャンプか)や、男の子か女の子かによって大きく異なります。
都市部で学校に通えるA君の一日を想像してみましょう。朝、学校へ行き、算数やソマリ語、アラビア語などの授業を受けます。授業が終わると家に帰り、水汲みや家畜の世話、幼い兄弟の面倒など、家の仕事を手伝います。それが終わると、友達とサッカーをして遊ぶのが楽しみです。
一方、農村部に住むB子さんは、学校には通えていません。朝早くから、家族のために遠くまで水を汲みに行き、食事の準備や掃除など、一日中家事に追われます。彼女にとって、勉強は遠い夢かもしれません。
このように、すべての子どもが同じように教育を受けられるわけではないのが、ソマリアの現実です。
教育と社会の関係
教育は、個人だけでなく、社会全体を豊かにする力を持っています。ソマリアにとって、教育は国の平和と発展に欠かせない、重要なカギです。
文字の読み書きができる「識字(しきじ)」は、生きる上で強力な武器になります。正しい病気の予防法を知って健康を守ったり、契約書を読んでだまされないようにしたり、より良い仕事に就いて貧困から抜け出したりするチャンスが生まれます。
特に、女の子への教育は社会を大きく変えると言われています。教育を受けた女性は、将来母親になったとき、自分の子どもの健康や教育に強い関心を持つようになります。それは、貧困や暴力の連鎖を断ち切り、次の世代の未来をより良くすることにつながるのです。
教育は、子どもたちに知識を与えるだけでなく、平和な社会を築くための「心の土台」を育んでいます。
国が抱える教育の課題と未来
ソマリアの教育が抱える課題は、山積みです。
- 低い就学率 世界で最も学校に通えていない子どもが多い国の一つです。
- 安全の問題 長引く紛争や治安の悪化により、安心して学校に通えない地域があります。
- 貧困 学校の費用が払えなかったり、家計を助けるために働かされたりする子どもが多くいます。
- 教員・施設の不足 先生の数も、机や椅子などの設備も圧倒的に足りていません。
- 自然災害 近年深刻化する干ばつの影響で、飲み水や食料を求めて家を離れなければならない家族も多く、子どもたちは教育の機会を失ってしまいます。
しかし、多くの課題がある一方で、希望の光も見えています。国際社会の支援のもと、統一カリキュラム(国が定めた教科書の内容)の作成が進み、少しずつ「ソマリア国民」としての教育が形になりつつあります。また、移動しながら暮らす遊牧民の子どもたちのために、ラジオ放送を使った遠隔教育など、新しい試みも始まっています。
平和が根付き、安定が訪れれば、ソマリアの子どもたちの学ぶ意欲は、国を復興させる大きな力となるでしょう。
教育と文化や価値観の関係
口承文化と「詩人の国」としてのアイデンティティ
長年、統一された文字教育が普及せず、コーランなどを「暗唱」する教育が中心だったため、ソマリアでは記憶力に頼る口承文化が非常に豊かになりました。自分の考えや歴史、ニュースなどを美しい「詩」に乗せて伝える文化が深く根付いており、「詩人の国」とも呼ばれています。複雑な比喩や物語を即興で詠みあげる能力は、高い知性として尊敬されます。これは、文字に頼らずとも知識や文化を継承してきた教育のあり方が生んだ、素晴らしい文化遺産です。
イスラムの教えに基づく「相互扶助」の精神
多くの子どもたちが最初に触れるマドラサ(宗教学校)での教育は、イスラムの教えを人々の価値観の基盤にしています。その中でも「サダカ(喜捨)」という自発的な助け合いの精神は、社会に深く浸透しています。困っている人がいれば、たとえ自分も豊かでなくても手を差し伸べるのが当たり前という考え方です。これは、厳しい自然環境や不安定な社会情勢の中、人々が支え合って生きていくために不可欠な価値観であり、宗教教育がその土台を育んでいます。
コミュニティ(氏族)への強い帰属意識と結束力
公教育が機能しなかった時代、教育は家族や「氏族(クラン)」と呼ばれる血縁集団、地域コミュニティが担ってきました。自分たちが属するコミュニティで学び、育ち、守られるという経験は、コミュニティへの強い帰属意識と固い結束力を生み出します。国家という大きな枠組みよりも、自分たちの氏族や地域への忠誠心や信頼感が先に立つこの価値観は、ソマリア社会を理解する上で非常に重要なポイントです。
創意工夫とレジリエンス(逆境を乗り越える力)
教科書が1冊しかなかったり、ノートや鉛筆がなかったりする環境で学ぶことは、子どもたちに「今あるもので何とかする」という創意工夫の力を授けます。また、干ばつや紛争といった厳しい現実の中で学び続ける経験は、困難な状況でも簡単には心が折れない「レジリエンス(精神的な回復力)」を育みます。当たり前が何一つない環境が、結果として人々をたくましく、現実的にさせている側面があると言えるでしょう。
まとめ
ソマリアの教育は、紛争、貧困、自然災害という、私たちには想像もできないほど厳しい現実に直面しています。学校に通うという「当たり前」が、決して当たり前ではない世界がそこにあります。
しかし、どんな困難な状況にあっても、子どもたちは学びたいと強く願い、その未来を信じて支え続ける人々が国内外にたくさんいます。
今回の自由研究を通して、遠いアフリカの国ソマリアに思いを馳せてみてください。私たちが毎日学校で学べることのありがたさを感じるとともに、世界の子どもたちが置かれた状況を知り、「自分に何ができるだろう?」と考えてみること。それが、世界とつながり、より良い未来を創るための、大切で大きな一歩となるはずです。
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