今回のテーマ
「地元の公共交通機関の運賃改定が利用者数に与える影響を歴史データで調べてみよう」
この自由研究は、地元の公共交通機関(バスや電車)が過去に行った運賃(料金)の改定に注目し、その改定がどれだけ多くの人に利用されているか(利用者数)にどのような影響を与えたかを、歴史的なデータを使って調べるものです。運賃が上がった時、利用者は本当に減るのか? 逆に運賃が安くなった時は増えるのか? 経済学でいう「価格の弾力性」という考え方を、身近なデータで検証します。この研究の面白さは、身近なサービスに隠された社会経済の法則を発見できるところにあります。
自由研究の目的
皆さんが普段使っているバスや電車は、私たちの生活になくてはならない「公共サービス」です。運賃改定は、私たちの「お財布」と、都市全体の「便利さ」の両方に大きな影響を与えます。
まず、この研究を通して、交通機関が運賃を決める裏側にある、「利益を出すこと」と「多くの市民に利用してもらうこと」のバランス、すなわち社会経済の仕組みが理解できます。次に、運賃と利用者数の関係を知ることは、未来の私たちの街の交通計画や政策を考える大きなヒントになります。地元の交通機関が、将来もずっと続いていくためにはどうすれば良いか、あなた自身が専門家のように深く考えることができるようになります。
自由研究のゴール
- レベル1 過去の運賃改定の時期と、その前後の利用者数の変化をグラフで示し、「運賃が上がると利用者は減る傾向がある」といった単純な関係を発見しましょう。
- レベル2 運賃改定以外の要因(例:新しい駅の開業、災害、地域の人口の変化)も考慮に入れ、データに隠された真の理由を考察します。複数の要因が絡み合う複雑さを読み解くのが目標です。
- レベル3 運賃改定の影響を数値化し、「運賃が10%上がると、利用者が何%減るか」という予測モデルを提案します。さらに、そのデータから、持続可能な運賃体系の新しいアイデアを提案できると最高のゴールです。
国内外の公共交通機関での運賃改定の結果事例
- 成功事例(値下げ)
ヨーロッパのある都市では、環境保護と交通渋滞解消のためにバスの運賃を大幅に引き下げました。その結果、一時的に利用者が大幅に増加し、街中の車の数が減る効果が見られました。これは、運賃を下げることで、人々の「車に乗る」という行動を変えられた良い例です。 - 日本の事例(値上げとサービス改善)
一方、老朽化した設備を更新するために運賃を値上げした日本の私鉄では、値上げ直後に利用者が減少したものの、その後、「より便利になったサービス(例:新しい特急の導入や駅のリニューアル)」が評価され、数年後には利用者数が回復したケースがあります。運賃改定の影響は一時的なものか、長期的なものかを調べるのが、あなたの研究の面白さになるでしょう。
研究を進めるうえで、以下のポイントに注目しよう!
- データの見つけ方
交通機関の「決算資料」「事業報告書」「統計年報」といった、インターネットで公開されている公的な資料を探しましょう。運賃と利用者数のデータは、行政や企業の公式ウェブサイトに掲載されていることが多いです。 - 比較
運賃改定があった「改定年」と、運賃が変わらなかった「非改定年」の利用者数の変化率を比較することが重要です。 - 分解
利用者数の変化は、運賃だけでなく、景気、人口、競合の交通機関の影響も受けます。これらの要因をできる限り分けて考え、「運賃改定だけによる影響」を推定する視点を持つことが、エキスパートレベルの分析につながります。
自由研究の進め方
ステップ1 調査対象の決定とデータ収集
地元のバス会社、または私鉄やJRの特定の路線を選び、過去10年間程度の「運賃の推移」と「年間/月間利用者数」のデータを集めます。
ステップ2 基本データのグラフ化と分析
収集したデータを一つにまとめ、「運賃の推移(棒グラフ)」と「利用者数の変化率(折れ線グラフ)」を重ねたグラフを作成します。グラフを見て、運賃改定の年の前後で、利用者数の変化率が大きく動いているかを確認し、最初の仮説を立てましょう。
ステップ3 裏付け要因の調査と除外
運賃改定以外の「裏付け要因」を調べます。例として、地域の人口推移、その年に起きた大きな出来事(災害、大規模イベント、経済状況)などをメモします。「2018年に利用者数が大きく減っているが、本当に運賃改定の影響だけだろうか? 同年に大きな工場が閉鎖されていないか?」と常に自問自答し、運賃の影響を純粋に分離しましょう。
ステップ4 結論と提言の作成
集めたデータと裏付け要因を総合して、「運賃改定は〇〇%の影響を与えた」という結論を導き出します。この結果に基づき、交通機関や地元自治体に対して、「利用者を増やすためには、運賃の〇〇円値下げよりも、〇〇のサービスの改善の方が効果的だ」といった具体的な提言をまとめましょう。
自由研究から発見したアイデア
あなたの研究で、もし「通勤時間帯の利用者は運賃にあまり影響されないが、日中の観光客は運賃に敏感に反応する」という傾向が発見されたとします。
この発見から、新しい運賃体系として以下の提案ができます。
時間帯別ダイナミック運賃の導入
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- 通勤・通学時間帯(朝夕) 運賃を据え置くか、わずかに高くすることで、交通機関の安定した収入源を確保します。
- 日中・観光時間帯 運賃を大幅に割り引くことで、運賃に敏感な観光客や高齢者の利用を増やし、日中の空席を効果的に減らします。
このように、データ分析の結果を基に、より効率的で公平な「時間帯別ダイナミック運賃」のアイデアを自治体や交通機関に提言できるのが、この研究の醍醐味です。
この自由研究に関連する仕事
- 公共政策コンサルタント 交通機関や自治体から依頼を受け、運賃設定や路線の見直しなど、市民生活に関わる政策をデータに基づいて提案する、社会貢献度の高い仕事です。
- マーケティング・リサーチャー 企業の商品やサービスの価格設定が、顧客の購買行動にどう影響するかを分析し、最適な価格戦略を導き出す仕事。
- エコノミスト(経済学者) 社会全体の経済の動きや、特定の価格変動が人々の生活や消費に与える影響を研究し、政府や企業への政策提言を行う仕事。
まとめ
公共交通機関の運賃改定を調べる自由研究は、単に数字を並べるものではありません。それは、私たちの日常の行動や、街の経済活動を左右する「価格の力」を読み解く、非常に実践的な経済学の研究です。
地元の交通データを集めて分析し、運賃改定の裏に隠された人々の気持ちを想像してみてください。あなたの研究は、未来の地域交通をより良くするための、具体的な提言へとつながるはずです。身近な疑問から、社会を変える一歩を踏み出してみましょう!
関連書籍
身近な仕事について考えてみよう!
- 仕事のことを通じて学んだこと、楽しかったこと、難しかったことを書いてみましょう。
- テーマについての新しい発見や、自分が感じたことをまとめます。
- 今後、さらに調べてみたいことや、他の人に教えたいことがあれば、それも書いてみましょう。