教育制度の特徴
インドネシアの教育制度は、幼稚園(TK: Taman Kanak-Kanak)から義務教育(SD・SMP・SMA: 小学校・中学校・高校)を経て、高等教育(大学・専門学校)へと進む仕組みです。2023年時点で義務教育は9年間(小学校6年+中学校3年)ですが、政府は12年間の義務化(高校まで)をめざしています。宗教教育も大切にされており、公立学校では月に数回、イスラム教・キリスト教・ヒンズー教などの宗教授業が組み込まれます。また、全国で使用される統一のカリキュラム(Kurikulum Merdeka または Kurikulum 2013)をベースにしつつ、各地域の文化や言語、宗教習慣を尊重した教育が行われる点も特徴です。地方(ジャワ島以外の離島や農村部)と大都市部で学校施設や先生の数・質に差があるため、教育の受けやすさに地域差があることも覚えておいてください。
教育方法
インドネシアでは伝統的に、先生が黒板で説明し、生徒がノートをとる「板書中心の授業」が多く見られます。一方で近年は、グループワークやプレゼンテーション学習、プロジェクト型学習(PBL: Project Based Learning)にも取り組む学校が増えてきました。例えば、ジャカルタのある公立小学校では「地元のゴミ問題を解決するアイデア発表会」を開催し、生徒たちが班ごとに地域調査をしてポスターを作り発表する授業を行っています。このように、教室の外に出て地域を観察しながら学ぶ機会も増えています。宗教系学校(マドラサ)では、イスラム教の教えに基づく道徳教育やコーラン朗読の時間があり、全体としては教科のカリキュラムと宗教教育がバランスよく混ざっているのが特徴です。
教育への取り組みや支援
- 政府の支援(BOSプログラム)
BOS(Bantuan Operasional Sekolah)は「学校運営助成金」で、公立・私立を問わず、基礎教育(小中学校)の運営費として全国の学校に毎年支給されています。教科書費、文房具、教材費に使われるため、貧しい家庭の子どもでも通いやすくなっています。
- NGOや国際機関の協力
UNESCOや国際NGOが、読み書き能力向上プログラムや教員研修を支援。特に東ヌサ・トゥンガラ州などの離島地域では、教員不足を解消するための遠隔講座や教材配布プロジェクトが行われています。
- 奨学金制度
国家奨学金(Beasiswa Unggulan)や地方自治体独自の奨学金があり、成績優秀者や経済的に困難な家庭の子どもを支援します。特に理系・技術系に進む学生には、奨学金と引き換えに地方の学校へ赴任して教える「教員補助プログラム」も存在します。
- 企業の協賛プログラム
大手企業(石油・ガス、パーム油、鉱業など)がCSR(企業の社会的責任)の一環として、校舎の修繕や図書館設備の寄贈、IT機器の導入支援を行っています。たとえば、スマトラ島のある県では、パーム油会社がタブレットとオンライン講座を提供し、遠隔地の生徒が都市部の授業をリアルタイムで視聴できるようになりました。
- 地域コミュニティとの連携
村や町の代表者、保護者会(Komite Sekolah)と学校が協力し、ボランティア教師の派遣や、子どもたちの送迎バス運営などを行っています。家庭の事情で通学が難しい子どもも、この仕組みで教育を受けやすくなっています。
子供達の1日の過ごし方
- 朝 06:00
起床。家族と一緒に朝食(ナシクニンや卵料理)を食べ、小さな礼拝(ムスリム家庭の場合)を済ませます。制服を着て、徒歩またはスクールバスで学校へ向かいます。
- 登校 07:00
7時に学校の門が開き、7時15分から全校生徒で国旗掲揚式(アップカラ・ベンダラ)が始まります。国歌を斉唱し、校長先生の話を聞きます。終わるとホームルーム(HR)でその日の連絡事項を確認します。
- 午前中の授業 07:30–11:30
1時間あたり45分の授業を4~5コマ受けます。科目は、数学、英語、インドネシア語、理科、社会など。教室では先生が黒板を使って説明し、生徒はノートをとりながら授業を受けます。週に1回は宗教教育(イスラム教のタゾキフやクラス開放)があり、別室でコーラン朗読のテストをします。
- 昼休み 11:30–12:30
校庭にある屋台エリアでナシゴレンやバクソの屋台からランチを買い、友達と一緒に食べます。日差しが強い日には学校の体育館や食堂で休むこともあります。
- 午後の授業 12:30–15:00
さらに2~3コマの授業があります。体育の授業ではサッカーやバスケットボールを行い、音楽の授業ではガムラン(ジャワ伝統楽器)の演奏を体験することも。放課後にはクラブ活動(バスケ部、科学クラブ、演劇部など)がありますが、アミラちゃんは家庭の手伝いで参加せず、16時には帰宅します。
- 自宅学習・家庭の手伝い 16:00–19:00
家に帰ったら宿題をしつつ、弟妹の面倒を見ます。夕食後は家族全員でテレビで夜のニュースやドラマを少し観て、21時ごろ就寝します。
地域や宗教、家庭の事情によって1日の過ごし方は違いますが、基本的には午前・午後の授業が中心で、週に6日間登校する学校も多く、一日の中に宗教の時間やクラブ活動が組み込まれています。
教育と社会の関係
インドネシア社会では、教育が「社会的地位を上げる手段」として大きな価値を持ちます。特に障がい者や農村部の貧しい家庭では、学校に通って読み書きや計算を学ぶことで、将来の就職や収入向上につながると考えられています。
- 家族や地域の期待 親世代は子どもに大学まで進学して公務員や大企業に就職してほしいと願い、学費や教材のために節約して支援する家庭も多いです。田舎では塾(プサンザラン)に通えない子どもも多いものの、家族や近所の先輩が家庭教師をしてくれることもあり、コミュニティの絆が教育を支えています。
- 宗教との結びつき イスラム文化の影響が強い地域では、イスラム教の宗教学校(マドラサやペサントレン)が地域コミュニティの中心になっています。そこで学ぶ子どもたちは、宗教教育と同時に読み書きや算数など基礎教養も身につけ、将来的に地域のリーダーや慈善活動家として活躍するケースも多いです。
- 経済成長との関連 急速な都市化・産業発展によりスキルが求められる産業が増え、日本の企業も進出しているため、英語や理系スキルを持つ若者は就職の機会が広がります。その一方で、地方の小規模な漁村や山岳地域ではインターネットが通じず、オンライン授業やデジタル教材の恩恵を受けにくい現状もあります。このように、教育機会の差が社会格差を生む要因となっているのが現状です。
国が抱える教育の課題と未来
- 地域間格差とインフラ不足
ジャカルタやスラバヤなど大都市圏には近代的な学校が多い一方、パプア州やスラウェシ島の山間部など遠隔地では教室がトタン波板(トタン板)屋根の簡易校舎で、黒板もチョークのみという学校も存在します。インターネット回線が安定しないため、オンライン学習やデジタル教材へのアクセスに制限があります。
- 教員の質と数の不足
遠隔地や離島の学校では、免許を持つ正規教員が不足し、資格をもたない代用教員(Guru Honor)やPTT(非常勤講師)に頼らざるを得ないケースが多いです。政府は「教師再配置プログラム」や「インセンティブ制度」で教員を地方に派遣しようとしていますが、都市への集中が解消されにくい課題があります。
- 教育費の負担
義務教育自体は無償化されていますが、制服代や教科書代、校外活動費用は家庭負担です。特に貧困層の家庭では「学校へ行かせるより働かせたい」と考えることもあり、児童労働による中途退学が社会問題となっています。
- カリキュラムの見直し
伝統的な暗記型教育から「クリティカルシンキング」や「21世紀スキル(協働・創造性)」を重視する方向へカリキュラムを改定中です。実際に新カリキュラム(Kurikulum Merdeka)では、地域の文化や産業を題材にしたプロジェクト学習を取り入れ、地元の課題解決力を育む狙いがあります。
- 未来への展望
政府は2030年までに全家庭にブロードバンド回線を敷設し、遠隔地でもオンライン教育が受けられる環境整備を進めています。また、STEM(科学・技術・工学・数学)教育を強化し、来るべきデジタル経済時代に対応した人材育成を目指しています。地元の大学も「起業家育成プログラム」を設置し、若手が地域産業を起こせるよう支援。教育の質が向上すれば、貧困削減や地域活性化にもつながり、インドネシア全体の発展が期待されています。
教育と文化や価値観の関係
Gotong Royong(相互協力)の精神
小学校の授業やクラブ活動では、児童たちが清掃活動や花壇づくりなどをグループで行います。これにより、「自分一人ではなく、みんなで助け合う」という協力の大切さ(Gotong Royong)が自然と身につきます。たとえば、登下校時の通学路清掃をクラス全員で分担して行うことで、隣人だけでなく地域全体を大切にする心が育まれます。
Pancasila(パンチャシラ)教育による多様性尊重
小・中学校の「Pancasila」授業では、インドネシアの国家哲学である「五原則」(信仰心、正義と人道、統一、多様性への尊重、社会正義)が教えられます。たとえば、クラス内でジャワ語、バリ語、バタク語など母語が異なる友人同士がペアを組んだグループワークを行い、お互いの言語や文化背景を紹介し合う活動を通じて、民族や言語の多様性を肯定し、共生を学びます。
宗教教育(宗教バランス)による寛容さ
イスラム教徒が多数を占める一方、キリスト教徒、ヒンズー教徒、仏教徒も存在するため、各宗教の授業が義務化されています。マドラサ(イスラム系学校)ではイスラム文化や礼拝の仕方を学びつつも、そのほかの宗教の儀式や習慣についても学ぶ機会があります。これによって、異なる宗教を尊重し合う価値観や寛容さが育ちます。
地方文化(ローカルカリキュラム)を重視したプロジェクト学習
Kurikulum Merdekaでは、各地域の伝統文化や産業を題材にしたプロジェクト学習が取り入れられています。たとえば、スラウェシ島のある小学校では「マカッサルの伝統的な織物(ティモールクロス)を調べよう」というテーマで、児童たちが家族やお年寄りから話を聞き、自分たちで簡易的な織り物体験を行ったり、完成品を学校祭で披露したりします。これにより、自分たちのルーツや郷土文化への誇りが芽生えます。
Budi Pekerti(品性教育)を通じた礼儀や道徳観の形成
インドネシアの小中学校では、日々のホームルームで「礼儀正しく挨拶する」「年長者を敬う」といった生活指導が徹底されています。たとえば、登校したらまず礼拝(ムスリムの場合)かショロット(他宗教の場合)を行い、教師・先輩・高齢者に丁寧に挨拶してから席に着くことが習慣化されています。こうした日常の積み重ねで、相手への思いやりや敬意を示す行動が当たり前の文化として定着します。
地域コミュニティと連携した学校行事
年に一度、村や町と協力して行う「お祭り(カリンバタランなど)」では、学校の児童が地域の伝統舞踊や音楽(ガムラン、ダンス)を披露します。これに向けて放課後や週末に地域のお年寄りから踊りや楽器の演奏を教わることで、世代を超えたつながりと地域愛が育まれます。
言語多様性と民族的アイデンティティの尊重
国語であるインドネシア語(バハサ・インドネシア)を学ぶ一方で、授業でジャワ語やバリ語、スンダ語など母語に触れる時間も設けられます。たとえば、あるバリ島の公立小学校では「バリ語で自己紹介しよう」という授業を実施し、自分の家族構成や好きな物をバリ語で発表します。これにより、自身のルーツを大切にしながらも国全体の統一言語を習得するバランス感覚が育ちます。
まとめ
インドネシアの教育は、豊かな文化と宗教的背景を反映しつつ、全国統一のカリキュラムと地域の特色を両立させる仕組みを持っています。しかし、都市部と地方部でのインフラや教員・教材格差が大きく、いまだに多くの課題を抱えています。政府や国際機関、企業、NGOなど多様なプレイヤーが協力し、遠隔地のネットワーク整備、教員研修、奨学金支援を進めることで、教育の質を向上させようとする動きが活発です。未来を担う子どもたちが平等に学べる環境が整えば、インドネシアはさらに経済的・社会的に発展し、グローバル社会で活躍する人材を輩出できるでしょう。日々変化するデジタル時代にも対応できるよう、地域の伝統を大切にしながら教育改革を続けることで、すべての子どもが夢を描きやすい国づくりをめざしています。
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