世界の教育|歴史的負の遺産から多様性を学ぶ力へ!アメリカ合衆国セイラムの教育が育む市民の価値観

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教育制度の特徴

アメリカ合衆国の教育は、連邦政府ではなく、主に州や学区(地域)にその権限が委ねられています。マサチューセッツ州セイラム市もその一例です。セイラムは、キンダーガーテン(幼稚園)から高校までの学校があり、一般的に小学校はキンダーから5年生まで、中学校は6年生から8年生まで、高校は9年生から12年生までという区切りが多いです。

特にマサチューセッツ州は、全米でもコネティカット州やメリーランド州と並び教育水準が高い州として知られており、州独自の共通テスト(MCAS)を実施して教育水準の維持に努めています。セイラム市でも、進学校と職業校を分けることなく統合して教育を行っているのが特徴です。公立学校の教育費の大半は、日本の地方税にあたる自治体の固定資産税から捻出されており、住民の意見が教育予算に強く影響します。

教育方法

アメリカの学校教育では、生徒の主体的な学びと、将来社会で求められるスキルを育成するためのアプローチが重視されます。

  • プロジェクト型学習(PBL) 実際に課題に取り組むことを通じて、複数の科目を統合的に学びます。
  • STEM教育の推進: 科学、技術、工学、数学の分野を統合し、論理的思考力と問題解決能力を養うための専門科目や統合型学習が行われています。
  • 社会情動学習(SEL) 子どもたちが自分の感情を認識し、コントロールする力、健全な人間関係を築く力、合理的な意思決定をする力を育むことを目的とした学習法が導入されています。
  • 専門分化された指導 小学校では一人の担任教師が多くの教科を教えますが、中学校や高校では、教師が専門科目を教えるために自分の教室に留まり、生徒が時間割に従って移動する教科担任制が一般的です。

また、セイラム市の中学校では、二つの異なる分野(例えば数学と科学、美術と音楽、国語と社会など)を関連付けながら教えるチームティーチングが行われる事例もあります。

教育への取り組みや支援

    セイラム市は、国際的な姉妹都市交流を行っており、教育においてもその交流を通じて知見を得ています。地域特有の課題として、学校によってはスペイン語を母国語とする生徒の割合が40%に上るなど、英語を理解しない子どもへの英語教育(ESL)が大きな課題となっています。しかし、ここでは英語力や学習能力でのクラス分けは行わず、多様な背景を持つ子どもたちを統合的に教育しています。

    教員の質を維持するための取り組みも特徴的です。マサチューセッツ州では、教員免許が5年更新制であり、更新のためには一教科につき150時間の研修が義務付けられています。これは、教師が生涯にわたって学習し、専門性を高めることを促す仕組みです。また、学校運営の財源は固定資産税がベースであるため、サマースクールなど新しいプログラムの導入には、自治体の予算編成と市民の意見が大きく関わってきます。

    子供達の1日の過ごし方

    アメリカの学校における一日の過ごし方は、学校段階によって大きく異なります。

    小学校では、ほとんどの生徒が終日、同じ教室で担任教師と一緒に学びます。クラスで週に1、2度、体育館や図書館へ行くこともあります。昼休みは約30分程度で、校庭で遊ぶ休み時間が設けられていることが多いですが、学校によっては短縮されたり、廃止されたりすることもあります。

    中学校・高校では、専門科目ごとに教師の教室を生徒が移動します。生徒は通常、学校のカフェテリアで昼食をとりますが、自宅から弁当を持参する生徒もいます。

    通学手段は、自宅から学校までの距離が徒歩圏を超える生徒には、学区から無料のスクールバスが提供されます。高校生になると、16歳以上の生徒は自分で車を運転して通学するケースも多く見られます。また、学校では「パジャマデイ」や「クレイジーヘアデイ」など、先生も含めて楽しめるイベントが頻繁にあり、個人の自由を尊重しつつ、社会的なルールを順守する環境です。

    教育と社会の関係

    アメリカの教育は、地域社会の価値観や経済状況と非常に密接に結びついています。教育費の財源が固定資産税に依存しているため、裕福な地域は教育予算が豊富になり、より優秀な教師や設備を整えやすく、これが教育格差を生む要因の一つにもなっています。

    一方、セイラムという歴史的な町では、「セイラム魔女裁判」の歴史を学ぶフィールドトリップなどを通じて、差別や迫害の問題を深く考え、多様な視点から問題を捉えることの重要性を社会全体で教えています。また、大学進学率は高く、セイラム市の高校の大学進学率は80%に達するなど、高い教育水準を社会が支えている側面があります。

    国が抱える教育の課題と未来

    アメリカ全体として、教育が抱える最大の課題は「教育格差」です。貧困層やマイノリティーが多い地域では、教育資源が不足し、教師の給与が低いため優秀な人材が集まりにくく、この格差が拡大する傾向にあります。特に、パンデミック時のオンライン授業への移行は、Wi-Fi環境がない貧困層の子どもたちの学習機会を奪い、格差をさらに広げました。

    未来に向けては、個々の多様なニーズや能力に応じた柔軟な教育が求められています。学校選択の自由を広げる制度(スクール・チョイス)の導入や、地域特性に応じた独自の教育プログラムの実施など、地方自治体や個々の家庭に教育の選択権を取り戻す方向性が議論されています。STEM教育や社会情動学習(SEL)をさらに深化させ、予測不能な未来を生き抜くための実践的な能力を育むことが、今後のアメリカの教育の重要なテーマとなっています。

            教育と文化や価値観の関係

            「魔女狩り」の歴史から学ぶ多角的な視点と寛容の精神

            セイラムは17世紀末の「魔女裁判」という歴史的な悲劇で世界的に知られています。セイラムの教育では、この「負の遺産」を深く掘り下げて学びます。

            教育を通じて、当時の人々が宗教、ジェンダー、社会的な立場の違いからどのように他人を非難し、迫害に至ったのかという差別や偏見の構造を詳細に分析します。学生たちは魔女裁判の博物館や歴史的建造物を訪れるフィールドトリップなどを通じ、「加害者」「被害者」「傍観者」それぞれの立場を追体験し、単一的な考え方ではなく、多様な視点から問題を捉える力を養います。この学習体験は、「他人を批判してはいけない」「理不尽な迫害を許さない」という寛容の精神と、他者の権利を尊重する価値観を市民の中に深く根付かせています。これは、後の項目で触れる現代の移民受け入れの基盤にもなっています。

            多様な言語環境下で培われる共生と包摂(インクルージョン)の意識

            セイラム市の学校には、スペイン語を母国語とする生徒が40%を占めるなど、非常に多様な言語的背景を持つ子どもたちが集まっています。この環境は、教育を通じて以下のような価値観を育みます。

            セイラムの学校では、英語力や学習能力だけでクラスを分けることをせず、すべての子どもを統合して教育する方針を持っています。これは、「すべての市民に平等な機会を与える」というアメリカ社会の根幹にある理念を、学校現場で実践していることを示しています。多様な背景を持つ子どもたちが共生するため、自己の感情を認識し、他者と健全な関係を築く力を育むSEL(社会情動学習)が重要視されます。これにより、文化や言語が違っても、感情やコミュニケーションを通じて互いを理解しようとする包摂的な態度が育成されます。

            地方税が教育予算となることによる主体的な地域参加意識

            アメリカの公教育の財源の多くは自治体の固定資産税に基づいています。セイラム市も例外ではありません。

            市民の納める税金が教育に使われるため、住民は教育の質や予算配分について強い関心を持ち、積極的に意見を表明します。例えば、サマースクールの実施など、教育プログラムの是非が市議会で議論される際、市民の意見が大きく影響します。この仕組みは、「公教育は自分たちの責任で支え、改善していくべきものだ」という主体的な市民意識と、高い公共性への意識を育みます。また、教育水準の高いマサチューセッツ州に住む人々は、教育そのものの価値を高く評価する傾向にあります。

            まとめ

            マサチューセッツ州セイラム市の教育は、州の高い教育水準と、地域社会が教育予算を支える仕組みを背景に、多様な子どもたちの能力を伸ばすことに注力しています。特に、エスニシティの多様性から生じる英語教育の課題にクラス分けをせずに取り組む姿勢や、教員の資質向上を義務付ける免許更新制度は特筆すべき点です。しかし、この地域性の強さゆえに、固定資産税を財源とする教育システムは、アメリカ全体で問題となっている教育格差の問題と隣り合わせでもあります。セイラムの教育は、伝統的な知の継承と、STEMやSELといった未来志向の学びを融合させ、すべての子どもが未来を切り開く力を育むことを目指しています。

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