教育制度の特徴
フィンランド教育の最大の柱は、「教育の機会均等」という考え方です。住んでいる場所や家庭の経済状況に関わらず、すべての子どもが高い質の教育を無料で受けられる権利を持っています。
- 完全無料の教育制度 驚くことに、フィンランドでは6歳から始まる就学前教育、7歳からの9年間の義務教育(総合学校)、さらに高校や大学、大学院に至るまで、原則として授業料が無料です。
- 競争よりも平等を重視 義務教育期間中は、全国一斉の学力テストがほとんどありません。学校や生徒を点数でランク付けすることをせず、一人ひとりの成長を長い目で見守ります。偏差値という考え方もなく、子どもたちは過度な競争から解放されています。
- 質の高い教員 フィンランドで学校の先生になるのは非常に難しく、大学院で修士号を取得することが必須条件です。専門的な知識と実践的な指導力を備えた教員が、大きな裁量権を持って子どもたちと向き合っています。
教育方法
フィンランドの授業は、単に知識を暗記させるものではありません。「なぜ?」「どうして?」という子どもの探求心を引き出す工夫に満ちています。
- 現象ベース学習(Phenomenon-Based Learning) 算数、理科、社会といった教科の垣根を取り払い、「水」「エネルギー」「EU」といった一つの「現象(テーマ)」を多角的に学ぶ授業が取り入れられています。例えば「水」というテーマなら、科学的な性質、歴史における水の役割、芸術での表現、環境問題などを、分野を横断して学びます。これにより、知識がバラバラにならず、実社会とのつながりの中で理解することができます。
- 「子ども主体」の学び 授業では先生が一方的に話すのではなく、子どもたちがグループで話し合ったり、プロジェクトに取り組んだりする時間が多くあります。自分で課題を見つけ、調べ、発表するというプロセスを通して、主体性や協働する力を養います。
教育への取り組みや支援
フィンランドでは、子ども一人ひとりが安心して学べるよう、国を挙げた手厚いサポート体制が整っています。
- 授業料以外の支援も無料 義務教育では、授業料だけでなく、学校給食、教科書、文房具などの教材もすべて無料で提供されます。遠くから通う子のための交通費も支援されるなど、家庭の負担を徹底的に減らす仕組みがあります。
- 手厚い特別支援教育 学習に困難を抱える子に対しては、早い段階から専門の教員が個別のサポートを行います。「誰一人として落ちこぼれさせない」という強い意志が、教育現場の隅々まで行き渡っています。
- 切れ目のない支援「ネウボラ」 フィンランドには「ネウボラ」という、妊娠期から子どもの就学まで、母子と家族を継続的にサポートする独自の制度があります。ここでは保健師が健康相談だけでなく、子育ての悩みや家庭環境についても相談に乗ってくれます。この「ネウボラ」による安定した土台があるからこそ、子どもたちは安心して学校生活をスタートできるのです。
子供達の1日の過ごし方
フィンランドの子どもたちの放課後は、日本の私たちから見ると少し意外かもしれません。
- 短い授業時間と少ない宿題 フィンランドの学校は、日本に比べて授業時間が短く、特に低学年では午後1時頃に終わることも珍しくありません。また、宿題の量も非常に少ないか、全くない学校もあります。
- 「遊び」が学びの一部 授業時間が短い分、子どもたちは放課後を森や公園で遊んだり、図書館に行ったり、音楽やスポーツなどの趣味の活動に取り組んだりして、のびのびと過ごします。フィンランドでは、「遊び」や「十分な休息」が、子どもの発達や学習意欲にとって不可欠なものだと考えられているのです。
教育と社会の関係
フィンランドの教育は、社会全体で支えられています。その背景には、国民の間に広く共有された価値観があります。
- 「信頼」で成り立つ社会 フィンランド社会の根底には、「信頼」の文化があります。国は自治体や学校を信頼し、学校は専門家である教員を信頼します。そして教員は、子どもたちの学ぶ力を信じています。この信頼関係が、管理や競争に頼らない、自由で主体的な学びを可能にしています。
- 教育への投資が国の力に 国民は高い税金を納めていますが、その使い道として質の高い教育や福祉サービスが提供されることに納得しています。教育にしっかりと投資することが、国の将来の発展やイノベーションにつながると信じられているのです。教育は、社会的・経済的な格差をなくし、安定した社会を築くための最も重要な基盤と位置づけられています。
国が抱える教育の課題と未来
「教育の理想郷」のように見えるフィンランドですが、決して課題がないわけではありません。
- PISA学力ランキングの変化 かつて世界トップレベルを誇ったPISA(OECDの学習到達度調査)の順位が、近年低下傾向にあります。この要因として、移民の増加による教育環境の多様化や、子どもたちの読書離れ、学習意欲の変化などが指摘されています。
- 新たな社会問題への対応 移民の背景を持つ子どもたちの言語や文化へのサポート、デジタル社会が進む中での情報格差やメンタルヘルスの問題など、社会の変化とともに新たな課題も生まれています。
しかし、フィンランドの強みは、これらの課題から目をそらさず、常に対話と改革を続けていく姿勢にあります。現状に満足せず、より良い教育を目指して試行錯誤を続けているのです。
教育と文化や価値観の関係
「信頼」が基本の社会文化
フィンランドの教育は、国が学校を、学校が教員を、そして教員が生徒を「信頼」することに基づいています。この教育を受けた人々は、社会に出ても他者を信頼し、自分も信頼されるに足る誠実な行動を心がけます。
落とした財布がそのままの状態で戻ってくる確率が非常に高いと言われています。バス停に置かれたままのベビーカーや、カフェの外に置かれたパソコンなども、盗まれる心配が少ない社会です。これは、人々の間に「他人のものを盗らない」という強い倫理観と信頼感が共有されている証です。
「静けさ」と「自分の時間」を尊ぶ価値観
フィンランドの教育は、子どもにじっくり考え、自分と向き合う時間を与えます。がやがやとした過度な自己主張よりも、落ち着いて本質を考えることが奨励されます。
フィンランド人は「シャイ」と表現されることがありますが、これは沈黙や静寂を心地よいと感じ、意味のないおしゃべりを好まない文化の表れです。自分のパーソナルスペースを大切にし、行列でも人と人との間に十分な距離をとる傾向があります。この価値観は、サウナで静かに過ごしたり、森で一人になったりする時間を愛する文化にも繋がっています。
「SISU(シス)」という不屈の精神
平等で手厚いサポートがある一方、フィンランドの教育は個人の主体性と自立を促します。困難な課題に対しても、自分で考え、粘り強く解決策を探す力が養われます。
フィンランドには「SISU(シス)」という、日本語に訳しにくい独自の言葉があります。これは「困難に立ち向かう、不屈の精神」「粘り強さ」「胆力」といった意味を持ち、フィンランド人の精神的な支柱となっています。厳しい自然環境の中で生き抜いてきた歴史とも相まって、教育によって育まれた「自立して課題を解決する力」が、このSISUの精神をさらに強固なものにしています。
ワークライフバランスを重視する働き方
学校の授業時間が短く、放課後は家族や友人と過ごしたり、趣味に打ち込んだりすることが当たり前の環境で育ちます。そのため、「仕事は人生の一部であり、すべてではない」という価値観が自然と身につきます。
フィンランドでは、長時間労働は評価されません。効率的に仕事を終え、定時で帰り、家族との時間や自分の趣味を大切にすることが推奨されます。夏には「夏小屋(モッキ)」と呼ばれる湖畔の別荘で1ヶ月近くの長い休暇を過ごすのが一般的で、仕事と同じくらいプライベートな時間を充実させることが、良い人生に不可欠だと考えられています。
まとめ
フィンランドの教育を探る旅は、いかがでしたか? テストや競争を減らし、徹底した機会均等と手厚いサポートで、子ども一人ひとりの「学ぶ力」を信じて育む。その根底には、社会全体で子どもを支え、未来への投資を惜しまないという、国の確固たる哲学がありました。
フィンランドの教育制度をそのまま日本に持ち込むことは難しいかもしれません。しかし、その背景にある「個性を尊重し、誰も置き去りにしない」という理念や、「競争よりも協働」「知識の暗記よりも探求」を重んじる学び方は、私たち自身の「学び」や「学校」のあり方を考える上で、大きなヒントを与えてくれます。
この自由研究をきっかけに、「自分にとって本当に楽しい学びって何だろう?」「どんな学校なら、もっとワクワクするだろう?」と考えてみてください。その問いの先に、あなたの未来を豊かにする学びの形がきっと見つかるはずです。
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