教育制度の特徴
ブラジルの教育制度は、2006年に9年間に拡大された義務教育を中心に構成されています。公立学校の学費はすべて無料で、多くの学校が午前・午後・夜間の2部制または3部制を採用しており、働きながら学ぶ大人向けのコースもあります。都市部では私立学校も多く見られます。ブラジルの学校年度は2月または3月に始まり、2学期制です。特徴的なのは落第制度があるため、年齢の異なる子どもたちが同じ教室で学ぶ光景が見られることもあります。また、日本の教科書のように科目ごとに分かれているのではなく、すべての教科が1冊にまとまっている場合があるのもユニークな点です。一方で、公立学校では体育館やプールなどの施設が不足している学校が多いという現状もあります。
教育方法
ブラジルの学校では、授業は基本的に内容の確認、解説(本読み)、質問、テストという流れで進められます。生徒たちは挙手にとらわれず自由に質問や発言をすることが多く、積極的に授業に参加します。宿題は量が多く、授業と同じくらい重要視されることもあります。また、進路選択などにおいては子どもの自主性が尊重される傾向にあります。ブラジルはキリスト教の精神が深く根付いているため、公立学校の教科書の最終ページに国歌が掲載されていたり、学校の事務所に十字架や聖書が置かれていたりするなど、独自の教育方針が見られます。国の教育基本法によって共通のカリキュラムが定められていますが、各州や市町村が地域の状況に合わせて授業内容や日程を調整できる柔軟性も持ち合わせています。
教育への取り組みや支援
ブラジルでは、国内外からのさまざまな教育支援や取り組みが行われています。例えば、国際交流基金はブラジルでの日本語教育を支援するため、「子どもCan-do」という学習ツールの開発に携わっています。日本からは、三井物産が在日ブラジル人児童生徒向けの奨学金制度を設けたり、日本からブラジルに帰国した子弟が現地学校や社会に適応できるようサポートする「カエルプロジェクト」を実施したりしています。
また、ユニセフなどのNGO団体は、貧困地域の子どもたちを対象に、職業訓練やレクリエーション、社会活動を通じて彼らの創造性や責任感、自信を育む支援を行っています。児童労働からの保護も重要な活動の一つです。JICA(国際協力機構)の草の根技術協力事業では、リオデジャネイロの貧困地域の子どもたちへの教育支援として、現地の社会教育施設の指導者たちが日本の教育実践を学び、指導方法の改善に活かす取り組みも行われています。
子供達の1日の過ごし方
ブラジルの子どもたちの多くは、学校で半日を過ごします。公立学校は午前と午後の二部制が一般的で、例えば午前授業の場合、朝7時頃から始まり、お昼頃には学校が終わります。ブラジルでは学校や会社が比較的早く始まるため、朝5時起きも珍しくありません。
学校が終わった午後の時間は、子どもによってさまざまです。家の手伝いをしたり、サッカーや塾などの習い事に通ったりする子もいます。都市部では英語塾やスイミングスクールに通う子どもが増える一方で、地方の貧しい地域では、幼い弟や妹の世話をしたり、家計を助けるために働いたりするため、満足に学校に通えない子どももいるのが現状です。学校での休み時間は、日本のようには毎時間ごとにはなく、数時間の連続授業の後にまとめて休憩時間が設けられるスタイルが多いです。
教育と社会の関係
ブラジルでは、教育は社会開発の強力な手段として位置づけられています。貧困や人口増加といった社会問題を解決するために、基礎教育の普遍化が国際社会の潮流と共に推進されてきました。ブラジル人の多くに見られる「自己肯定感の強さ」は、学校教育や社会環境に起因すると言われています。親や周囲の大人からの頻繁なスキンシップや肯定的な声かけが、子どもの自己肯定感を育む重要な要素となっています。
また、社会的な差別や排除を乗り越えるため、異なる文化遺産を尊重する「文化多元主義」が教育に取り入れられています。先住民の伝統文化を継承しつつ、ポルトガル語などブラジル一般社会の知識を学ぶ先住民教育も行われています。しかし、教員の能力不足や学校の資金不足、家庭の貧困による中途退学など、教育が社会の不平等を完全に解消するには多くの課題が残されています。特に女の子は、児童婚などの問題により教育機会を奪われるケースもあります。
国が抱える教育の課題と未来
ブラジルが抱える教育の課題は多岐にわたります。まず、国内の教育格差が大きく、特に農村部や貧困世帯では留年率や退学率が高い傾向にあります。公立学校では施設が不足しているだけでなく、質の高い学習教材や十分な学びの場が不足していることも課題です。また、教員の質の低さや不足、そして教員の定着率の低さ(数年で辞めてしまうケースが多い)も深刻な問題です。国際的な学力調査PISAにおいても、ブラジルの生徒は基礎的な学力レベルに達していない割合が高いことが示されており、授業の欠席や遅刻が多い生徒も目立ちます。家庭の貧困が原因で子どもが労働に従事し、学校を中途退学せざるを得ない状況も依然として存在します。公用語であるポルトガル語を母語としない先住民の子どもたちにとっては、言語の壁も大きな障害となっています。さらに、近年導入が進むオンライン授業は、子どもにとってはストレスが多く、学校や保護者の間では活用が進んでいないという現実もあります。
しかし、未来に向けた取り組みも始まっています。ブラジルは、2025年までにすべての学校で気候変動教育を義務化する計画を発表しており、これは国家環境教育政策の一環です。この取り組みは、若い世代が未来に必要な知識やスキルを身につけ、気候危機に立ち向かう力を養うことを目指しています。
教育と文化や価値観の関係
強い自己肯定感と表現力
ブラジルの学校では、子どもたちが自由に発言したり、質問したりすることが奨励されます。また、家庭や社会全体で、親や周囲の大人からの積極的なスキンシップや肯定的な声かけが多いことが知られています。このような環境が、子どもたちが自分の意見をはっきりと持ち、自信を持って表現する力を育んでいます。これが、カーニバルでの大胆な自己表現や、サッカー選手たちの個性豊かなプレー、さらには日常生活での明るくオープンなコミュニケーションスタイルにもつながっていると言えるでしょう。
多様な文化の受容と共生
ブラジルは、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、そして先住民の文化が混ざり合ってできた国です。教育制度においても、異なる文化的背景を持つ子どもたちが共に学ぶ環境があり、「文化多元主義」の考え方が取り入れられています。これにより、幼い頃から多様な価値観に触れ、互いを尊重し合う精神が育まれます。これが、様々な民族が共存し、多様な音楽、料理、芸術が発展するブラジルならではの文化を形成する基盤となっています。
家族やコミュニティの絆の重視
多くの公立学校が半日制であるため、子どもたちは午後の時間を家族や近所のコミュニティで過ごす時間が長くなります。これにより、家族間の強い結びつきや、地域コミュニティとの密な関係性が育まれやすくなります。困ったときはお互いに助け合う精神や、祝祭日には大家族や友人が集まって盛大に祝う文化は、このような日々の生活の中から生まれてきます。教育が学校内だけでなく、家庭や地域全体で支えられているという感覚が、社会全体の温かさやおおらかさにも繋がっているのかもしれません。
「ジョギング」の精神と柔軟な思考
ブラジルの教育では、落第制度があるため、様々な年齢の子どもたちが同じクラスで学ぶことがあります。また、公立学校の施設が必ずしも充実しているわけではない中で、子どもたちは工夫しながら学び、困難に適応する力を身につけていきます。これは、ブラジル人が持つ「ジョギング」(解決策を見つけるための創造性や適応能力)と呼ばれる精神にも通じます。計画通りにいかなくても、臨機応変に対応し、ポジティブに乗り越えようとする姿勢は、こうした教育環境の中で培われることが多いと言えるでしょう。
まとめ
ブラジルの教育は、公立学校の無償化によってすべての子どもに学ぶ機会を提供しようと努めています。二部制の導入や、質問しやすい自由な授業環境など、独自の教育方法も見られます。また、日本からの支援やNGOの活動など、教育をより良くするための多様な取り組みが行われています。
しかし、広大な国土に存在する地域間や経済的な格差は、教育の質の不均一さや中途退学の問題など、多くの課題を生み出しています。それでも、ブラジルは教育を通じて社会的な課題を解決し、未来を築こうとしています。特に、環境教育の義務化など、持続可能な社会を見据えた新しい学びの形にも挑戦しています。ブラジルの子どもたちが持つ無限の可能性を引き出し、より良い未来を創造するため、教育はこれからも進化し続けることでしょう。
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