教育制度の特徴
サイパン島などで知られる北マリアナ諸島は、アメリカ合衆国のコモンウェルス(自治連邦区)です。そのため、教育の基本的な仕組みはアメリカと同じで、幼稚園(Kindergarten)から高校卒業までの13年間(K-12システム)が無償の義務教育となっています。
ほとんどの子どもたちは、地域の公立学校(Public School System – PSS)に通います。教科書や授業で使われる言葉は主に英語ですが、北マリアナ諸島ならではの大きな特徴として、先住民族であるチャモロ人とカロリン人の言語や文化を学ぶ時間が正式な授業として組み込まれています。アメリカのシステムを土台にしながら、自分たちのルーツを大切にする教育が行われているのです。
教育方法
授業スタイルは、先生の話を聞くだけでなく、生徒同士で意見を交換するディスカッションや、グループで一つのテーマを調べるプロジェクト形式の学習など、生徒が積極的に参加するアメリカ式が中心です。
特にユニークなのは、チャモロ語・カロリン語の授業です。ここでは、ただ言葉を学ぶだけでなく、昔から伝わる物語の読み聞かせを聞いたり、伝統的な歌や踊りを習ったりします。また、アウトリガーカヌーでの航海術や、ヤシの葉を使った工芸品の作り方など、島の暮らしに根付いた「生きた知恵」を、長老や専門家から直接教わる機会もあります。これは、テストの点数だけでは測れない、大切な文化のバトンを次の世代につなぐための教育方法です。
教育への取り組みや支援
北マリアナ諸島の教育は、アメリカ連邦政府からの手厚い財政支援によって支えられています。これにより、教科書の無償配布や、スクールランチ(給食)の提供、ICT機器の導入などが進められています。
また、独自の文化を守り育てるための「バイリンガル・バイカルチュラル教育(二言語・二文化教育)」に力を入れています。これは、英語と自分たちの母語(チャモロ語やカロリン語)の両方を話し、アメリカ文化とマリアナ文化の両方を理解できる人材を育てることを目指す取り組みです。 さらに、島で唯一の大学である「北マリアナ大学(Northern Marianas College – NMC)」では、観光業や看護、教育など、島の未来を担う人材を育成するための専門的な教育が行われています。
子供達の1日の過ごし方
太陽が昇ると、子どもたちは黄色いスクールバスに乗って学校へ向かいます。学校では、英語や算数などの主要な科目のほかに、チャモロ語や文化の授業を受けます。給食は、ハンバーガーやタコライスといったアメリカンスタイルのメニューが人気です。
午後の授業が終わると、子どもたちは思い思いの時間を過ごします。野球やバスケットボールなどのスポーツに汗を流す子もいれば、友達と誘い合って、透き通った青い海で泳いだり、魚を釣ったりして遊びます。また、おじいさんやおばあさんの家に行って、農作業を手伝ったり、家族で開かれるバーベキューパーティーの準備をしたりと、家族との時間をとても大切にします。南国の豊かな自然と、強い家族の絆の中で、子どもたちはのびのびと育っています。
教育と社会の関係
北マリアナ諸島にとって、教育は島の経済と文化を支えるための重要な柱です。 主要産業である観光業で働くためには、高い英語力と、観光客をもてなすホスピタリティ精神が求められます。そのため、学校教育、特に北マリアナ大学での観光学プログラムは、社会で活躍するためのパスポートのような役割を果たしています。
一方で、多くの若者がより良い仕事や教育の機会を求めて、高校や大学卒業後にグアムやアメリカ本土へ渡る「頭脳流出」も起きています。そのため、教育を通じて「島に残って地域社会に貢献したい」と思えるような、郷土への誇りと愛情を育むことが非常に重要だと考えられています。
国が抱える教育の課題と未来
美しい島々にも、教育に関する悩みはあります。一番の課題は、アメリカ本土と比べた教育レベルの格差や、教員不足です。特に、専門的な科目を教えられる先生や、チャモロ語・カロリン語を正しく指導できる先生の確保は、常に大きな課題となっています。
また、島の経済は観光業に大きく依存しているため、観光客が減ると、その影響が教育予算にも及んでしまいます。巨大な台風がたびたび襲来し、学校施設が大きな被害を受けることも少なくありません。 未来に向けて、インターネットを使った遠隔授業で本土との格差を埋めたり、島の自然や文化を活かした新しい産業(環境ツーリズムなど)を担う人材を育てたりすることで、これらの課題を乗り越えようと努力しています。
教育と文化や価値観の関係
「ダブルのアイデンティティ」を持つ価値観
英語を話すアメリカ国民であり、同時にチャモロ人・カロリン人でもあるという「二つのルーツ」を誇りに思う価値観が育まれています。学校でアメリカの歴史とマリアナの伝統文化の両方を学ぶことで、グローバルな視野を持ちながら、自分の島の文化にも強い愛着を持つことができます。これは、友人との会話で英語とチャモロ語が自然に混ざり合う様子や、アメリカのポップソングと伝統的なチャント(詠唱)の両方を楽しむ文化に繋がっています。
Inafa’maolek(イナファマオレック)という助け合いの文化
これはチャモロの言葉で、「みんなで良くしていく、調和を保つ」という意味の、相互扶助の精神です。学校教育が、地域の長老を先生として招いたり、フィエスタ(村祭り)などの共同体行事と連携したりすることで、子どもたちは幼い頃からコミュニティの一員としての自覚を持ちます。困っている人がいたら助け合う、年長者を敬うといった行動が、教室の中だけでなく、社会全体の文化として自然に実践されています。
海や自然を「神聖な教科書」と考える価値観
子どもたちは、理科の授業でサンゴ礁の生態系を学ぶだけでなく、放課後にはその海で泳ぎ、伝統的な漁を体験します。教育と生活が海というフィールドで一体化しているため、自然は単なる遊び場ではなく、食料を与えてくれる母であり、先祖から受け継いだ神聖な場所であるという深い敬意が育まれます。これが、地域の環境保護活動への積極的な参加や、自然と共生するライフスタイルに繋がっています。
「おもてなし」と「自己表現」が両立したコミュニケーション文化
主要産業である観光業を意識した教育は、訪問者に対する温かいおもてなしの心を育みます。一方で、アメリカ式のディスカッションを重視する教育は、自分の意見を堂々と主張する自己表現力を養います。この二つが合わさり、初対面の相手にもフレンドリーに接しながら、自分の考えもしっかりと伝えることができる、明るくオープンなコミュニケーション文化を生み出しています。
まとめ
北マリアナ諸島の教育は、アメリカのグローバルな教育システムと、島々で何世代にもわたって受け継がれてきたローカルな文化が融合した、非常にユニークな学びの形です。子どもたちは、青い海と空の下、英語を流暢に話しながら、自分たちの祖先の言葉や歌、生きる知恵を学び、強いアイデンティティを育んでいます。
グローバル化が進む世界の中で、「自分らしさ」とは何か、そして自分のルーツを大切にしながら未来をどう生きるか。北マリアナ諸島の子どもたちの学びの姿は、私たちにそんな大切な問いを投げかけてくれているのかもしれません。
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